3時に目が覚める。
テントから外を見ると、満天の星。
さあ、聖岳を越え、百閒洞山の家のアレを求めて、二十年来のリベンジ山行だ!
テントから外を見ると、満天の星。
さあ、聖岳を越え、百閒洞山の家のアレを求めて、二十年来のリベンジ山行だ!
パンと紅茶の朝めしをすませ、手早くテントを撤収。
4:10 やっとライトの灯った聖平小屋を後にする。
小屋の左手の木道を歩くと、ほどなく分岐。
左に行けば茶臼岳、右に行けば聖岳だ。
樹林の間から、夜が明けていくのがわかる。
前方を見上げると、巨大な聖岳の前に、小聖岳。
あの森林限界まで登れば、朝日の昇っていく南アルプスが見えるだろう。
急げっ!
呼吸を整えつつ、スパートをかける。
あの岩稜を越えれば・・・
すごい勢いで登りつめると、そこが小聖岳の頂上。
ザックをおろす間もなく、カメラを構えると、先着していた二人組が、アッと言った瞬間に日が昇った。
なんて幸運な!
ジャストのタイミングで小聖岳に、5:10 到着だ。
紅く染まる富士山。
さらに巨きく見える、聖岳。
この絶景にすっかりテンションもあがり、幸先のいいスタート。
聖平小屋のテント許可証返却ボックスの状況から鑑みても、先行しているのは数組。
しかも24人の山岳部大部隊はまだ出発していない。
よしっ!これならリベンジ間違いなしだ!
ここから聖岳へのザレた急登となるのだが、登山道の両脇には花真っ盛りで、なかなか歩がすすまない。
イワツメクサ?
・・・?
この聖岳の登りがなかなかこたえるのだが、お花のおかげか、早朝の冷たい南アルプスの空気のおかげか、苦もなく高度をかせいでいく。
ふりかえれば、小聖岳の山頂がもうあんなに遠い。
あと少し・・・
ひたすら歩を進めていると、いきなりあたりが開けて、
6:25 聖岳山頂到着。
ああ、この3000mからの景色が見たかったのだ。
登ってきた南側には、茶臼岳をはじめ、南アルプス深南部の山々。
北を振り返れば、南アルプスの巨人、赤石岳の雄姿。
で、デカい。。。
とてもあの登りを同じ日に登りきって次のテン場なんて無理だな。
左を見れば、兎岳。
あの稜線へ登り返すのだが、なんだかそれほどの急な登り返しにも見えず、心に楽勝ムードが漂う。
が、兎岳のコルに向かって下りはじめは楽勝なのだが、そのうち、稜線を外れ、北側の斜面に登山道は回り込み、どこまで下っていくのかと悲鳴をあげたくなるような急降下。
その途中で、本日初めてのすれ違い、女性の単独行にバッタリ。
百閒洞からこの時間に? とびっくりしたのだが、昨夜は兎岳の避難小屋に泊まったそうな。
息も弾ませず登ってきた彼女をみて驚いたのだが、後から別の方に聞くと、なんと彼女は甲斐駒から縦走していて、茶臼まで行くそうな・・・ ツワモノ。。。
そうこうしているうちに、兎岳のコル 7:25 到着。
そこからも北側の斜面を岩場がらみで登っていくのだが、テン泊装備の身にはちょっとこたえる。
兎岳避難小屋のあるところまで登ってきた。
避難小屋は、この広場の左手にある、がっしりとしたコンクリート造りの建物だ。
ここからは、斜度もゆるやかになり、8:20 兎岳山頂到着。
これで、聖岳、兎岳と本日の難関はほぼ踏破したので、涼風に吹かれながら、大休止だ。
この頃から雲が沸きはじめ、赤石岳の山頂も曇りがち。
さて、時間も早いけれど、15分も休んだので、天気のいいうちに百閒洞のテント場まで直行しますか。
目指すのは、手前の小兎岳、そして奥の中盛丸山。
そこを越えれば、百閒洞への下降点だ。
10:20 中盛丸山山頂
ここで、昨夜テント場でお隣だった方に追いつかれる。
ザックを見ると、私の日帰り山行用よりも遙かに小さく、とてもテントが入っているようには見えないのだが、ツエルトではなくちゃんとテントを張っていらっしゃったので、装備のコンパクトさに驚く。
その方は、百閒洞でテントを張ったものか、先を目指すか迷っているとのこと。
昨夜の聖平小屋の情報では百閒洞は本日混みそうだ、とか、百閒洞山の家のアレは、ぜひ食べたいですもんね・・・などと情報交換。
男性がここで先行し、数分後に私も中盛丸山を後にする。
百閒洞のテント場も、小兎岳からチラッと見えたのだが、まだ一張もテントはなく、このぶんだと11:30には着けるだろうから、夕食の予約もほぼ先頭集団だろう。
もう、この頃から、頭の中は、二十年前に食することのできなかった百閒洞山の家の名物、揚げたてのとんかつの夕食とビールのことだけ。
中盛丸山から下りきり、少し登り返すと、百閒洞への下降点の分岐。
ふたたび樹林帯の中へはいり、蒸し暑いトラバース道なのだが、もうゴールは間近なのだ。
あっ、とんかつが見えた!(笑)
ほんとに山深いところにポツンとある百閒洞山の家に向かって怒涛の進撃。
ちょうど、11:30 百閒洞山の家に到着~!
小屋の前のベンチにザックを置いて、スキップする勢いで小屋の受付へと。
が・・・
小屋の扉の前に、衝撃的な張り紙が。
・・・・・・・・。
とんかつ・・・
とんかつ・・・・・・
とんかつ・・・・・・・・・
あまりの衝撃に目まいがしそうになりながら、それでも一番、二番乗りなら・・と
淡い期待を胸に、受付でおそるおそる、「あの・・・とんかつ・・・」と切り出してみたが
小屋番さん、
「今日は100人以上の予約が入っていて、申し訳ないのだけど・・・」と
きっぱり断られた。
「夕食が食べたいのなら、テントだと荒川小屋まで行くしかないね・・・」
ああ、とんかつ・・・
二十年来リベンジを誓ってきた、あの百閒洞山の家の揚げたてとんかつ・・・
頭が真っ暗というより、真っ白になり、なすすべもなく小屋前のベンチへと引き返す。
他のテント山行の人も、小屋泊まりの人たちも、24人の大部隊もかわし、満を持して乗り込んだだけに、衝撃もひとしお。
(じつは、あの24人の大部隊は百閒洞山の家は小屋泊だったのだ)
ふらふらとベンチに座り込み、地図を取り出して眺める。
今回は、この百閒洞の夕食が目当てだったので、もうさしたる山めし食材もない。
そうすると、あとは荒川小屋の荒川カレーしかないな。
聖平小屋からここまで、コースタイムで7時間ほど。
そして、ここから荒川小屋へは、あの巨大な赤石岳への登りが3時間、そしてさらに小赤石岳へと縦走し、コースタイムで5時間あまり。
テン泊装備の重さと、疲労した足。
荒川小屋の夕食受付16時までに着けるのだろうか・・・
本来であれば、今日はゆっくりと百閒洞でビールととんかつを堪能し、明日、赤石岳を越えて椹島へ下山するというコースだったのだが、もうこうなったら行くしかないっ!
反射的にザックを背負い、小屋番さんに予定変更を告げて、ダッシュで百閒洞山の家を後にする。
気持ちのよさそうな、ガラガラのテント場を横目に稜線へと向かう。
ガスってなにも見えない中、しゃにむに登り、百閒平 12:25。
そのまま、赤石岳の大斜面下のコルまで飛ばし、
ここから岩礫のトラバース道を上がっていく。
赤石岳への登りの中腹くらいに標柱があり、そこで先の男性が座り込んで補給中。
お互いに目で全ての想いを交わしつつ、私はそのまま何も見えないガスった斜面を登り続ける。
もうあと少しで頂上というところで、ポツポツと雨粒がきたかと思うと、だしぬけにバケツをひっくり返したような土砂降り。
慌ててザックから雨具を出しつつ、カメラを避難させ、ザックカバーを。
急斜面だったこともあり、雨具を着ようとモタモタしているうちに、ずぶ濡れになってしまった。。。
時間を10分ほどロスってしまった上に、ズボンもぐっしょりで、重たいことこの上ない。
雨に打たれながら、トボトボと赤石岳の稜線へ。
前方に雨に煙る赤石岳避難小屋が見え、よほどこのまま避難小屋にはいってしまおうかと思ったのだが、荒川カレーを目指して突き進む。
14:05 赤石岳山頂。
土砂降りの中ゆえ、カメラもだせず、写真もなし。
二十年来夢見ていた山頂も、ただ通過するだけ。
もう、後は時間のことだけしか頭になく、遮二無二稜線を歩き、小赤石岳(3081m)へ登り返し、14:30 山頂。
急げ。
あと1時間半しかない。
小赤石岳を過ぎると、大聖平の分岐まで、これでもかというほど砂礫の道を下っていく。
目印がほとんどなく、視界も効かないので、道があっているのかも不安になってくる。
ガスの中に、大聖平の標識が見えたときには正直ホッとした。
15:05 大聖平。
言うことをきかなくなってきた足に喝を入れつつ、レインウェアの中で滴る汗の分、水を飲み、ラストスパートに備える。
雷のゴロゴロ鳴っている方向へとダッシュしつつ、荒川小屋へのトラバース道を驀進。
15:30 ガスの中に、荒川小屋の赤い屋根が見え、ザックを軒下の雨がかからないところにドサッと置き、倒れ込むように荒川小屋の受付へ。
夕食の受付には何とか間に合い、3回戦 18:10 の回の夕食券を手に入れることができた。
テントの受付も済ませ、テント場の最下段に、小雨の中テントを張り終える。
荷物をザックから出していたら、また雨脚が強まり、バケツをひっくり返したような雨に。
全てを一気にテントに放り込んで、登山靴を収容し、ドボドボの服のままテントの中に倒れ込んだ。
4時過ぎに聖平小屋を出発してから、12時間弱。
コースタイムで13時間ほどの道のりを、後半は何も見えない土砂降りの中、歩いてきた。
荒川小屋(のカレー)というゴールを目指すあまり、プロセスである山歩きを楽しめたのだろうか?
歩ききる、やりきる、目的地へたどり着くという目標は達成したけれど、それが本当に楽しいことだったろうか?
疲労と寒さで、思考も途絶えがちだったが、今日の山歩きでは、すごく大事な教訓を、身をもって得たような気がする。
今まで、体力にまかせ、気力を振り絞って、いろんなムリなことも達成したこともあったけど、
山そのものを楽しむ。山そのものを味わうことを
これからの自分の山歩きにしよう。
仕事も、人生も。
夕食にいただいた、荒川小屋のカレーは、とても美味しかったけれど、
今日の私には、ほんの少し、ほろ苦かった。
(つづく)
4:10 やっとライトの灯った聖平小屋を後にする。
小屋の左手の木道を歩くと、ほどなく分岐。
左に行けば茶臼岳、右に行けば聖岳だ。
樹林の間から、夜が明けていくのがわかる。
前方を見上げると、巨大な聖岳の前に、小聖岳。
あの森林限界まで登れば、朝日の昇っていく南アルプスが見えるだろう。
急げっ!
呼吸を整えつつ、スパートをかける。
あの岩稜を越えれば・・・
すごい勢いで登りつめると、そこが小聖岳の頂上。
ザックをおろす間もなく、カメラを構えると、先着していた二人組が、アッと言った瞬間に日が昇った。
なんて幸運な!
ジャストのタイミングで小聖岳に、5:10 到着だ。
紅く染まる富士山。
さらに巨きく見える、聖岳。
この絶景にすっかりテンションもあがり、幸先のいいスタート。
聖平小屋のテント許可証返却ボックスの状況から鑑みても、先行しているのは数組。
しかも24人の山岳部大部隊はまだ出発していない。
よしっ!これならリベンジ間違いなしだ!
ここから聖岳へのザレた急登となるのだが、登山道の両脇には花真っ盛りで、なかなか歩がすすまない。
イワツメクサ?
・・・?
この聖岳の登りがなかなかこたえるのだが、お花のおかげか、早朝の冷たい南アルプスの空気のおかげか、苦もなく高度をかせいでいく。
ふりかえれば、小聖岳の山頂がもうあんなに遠い。
あと少し・・・
ひたすら歩を進めていると、いきなりあたりが開けて、
6:25 聖岳山頂到着。
ああ、この3000mからの景色が見たかったのだ。
登ってきた南側には、茶臼岳をはじめ、南アルプス深南部の山々。
北を振り返れば、南アルプスの巨人、赤石岳の雄姿。
で、デカい。。。
とてもあの登りを同じ日に登りきって次のテン場なんて無理だな。
左を見れば、兎岳。
あの稜線へ登り返すのだが、なんだかそれほどの急な登り返しにも見えず、心に楽勝ムードが漂う。
が、兎岳のコルに向かって下りはじめは楽勝なのだが、そのうち、稜線を外れ、北側の斜面に登山道は回り込み、どこまで下っていくのかと悲鳴をあげたくなるような急降下。
その途中で、本日初めてのすれ違い、女性の単独行にバッタリ。
百閒洞からこの時間に? とびっくりしたのだが、昨夜は兎岳の避難小屋に泊まったそうな。
息も弾ませず登ってきた彼女をみて驚いたのだが、後から別の方に聞くと、なんと彼女は甲斐駒から縦走していて、茶臼まで行くそうな・・・ ツワモノ。。。
そうこうしているうちに、兎岳のコル 7:25 到着。
そこからも北側の斜面を岩場がらみで登っていくのだが、テン泊装備の身にはちょっとこたえる。
兎岳避難小屋のあるところまで登ってきた。
避難小屋は、この広場の左手にある、がっしりとしたコンクリート造りの建物だ。
ここからは、斜度もゆるやかになり、8:20 兎岳山頂到着。
これで、聖岳、兎岳と本日の難関はほぼ踏破したので、涼風に吹かれながら、大休止だ。
この頃から雲が沸きはじめ、赤石岳の山頂も曇りがち。
さて、時間も早いけれど、15分も休んだので、天気のいいうちに百閒洞のテント場まで直行しますか。
目指すのは、手前の小兎岳、そして奥の中盛丸山。
そこを越えれば、百閒洞への下降点だ。
10:20 中盛丸山山頂
ここで、昨夜テント場でお隣だった方に追いつかれる。
ザックを見ると、私の日帰り山行用よりも遙かに小さく、とてもテントが入っているようには見えないのだが、ツエルトではなくちゃんとテントを張っていらっしゃったので、装備のコンパクトさに驚く。
その方は、百閒洞でテントを張ったものか、先を目指すか迷っているとのこと。
昨夜の聖平小屋の情報では百閒洞は本日混みそうだ、とか、百閒洞山の家のアレは、ぜひ食べたいですもんね・・・などと情報交換。
男性がここで先行し、数分後に私も中盛丸山を後にする。
百閒洞のテント場も、小兎岳からチラッと見えたのだが、まだ一張もテントはなく、このぶんだと11:30には着けるだろうから、夕食の予約もほぼ先頭集団だろう。
もう、この頃から、頭の中は、二十年前に食することのできなかった百閒洞山の家の名物、揚げたてのとんかつの夕食とビールのことだけ。
中盛丸山から下りきり、少し登り返すと、百閒洞への下降点の分岐。
ふたたび樹林帯の中へはいり、蒸し暑いトラバース道なのだが、もうゴールは間近なのだ。
あっ、とんかつが見えた!(笑)
ほんとに山深いところにポツンとある百閒洞山の家に向かって怒涛の進撃。
ちょうど、11:30 百閒洞山の家に到着~!
小屋の前のベンチにザックを置いて、スキップする勢いで小屋の受付へと。
が・・・
小屋の扉の前に、衝撃的な張り紙が。
・・・・・・・・。
とんかつ・・・
とんかつ・・・・・・
とんかつ・・・・・・・・・
あまりの衝撃に目まいがしそうになりながら、それでも一番、二番乗りなら・・と
淡い期待を胸に、受付でおそるおそる、「あの・・・とんかつ・・・」と切り出してみたが
小屋番さん、
「今日は100人以上の予約が入っていて、申し訳ないのだけど・・・」と
きっぱり断られた。
「夕食が食べたいのなら、テントだと荒川小屋まで行くしかないね・・・」
ああ、とんかつ・・・
二十年来リベンジを誓ってきた、あの百閒洞山の家の揚げたてとんかつ・・・
頭が真っ暗というより、真っ白になり、なすすべもなく小屋前のベンチへと引き返す。
他のテント山行の人も、小屋泊まりの人たちも、24人の大部隊もかわし、満を持して乗り込んだだけに、衝撃もひとしお。
(じつは、あの24人の大部隊は百閒洞山の家は小屋泊だったのだ)
ふらふらとベンチに座り込み、地図を取り出して眺める。
今回は、この百閒洞の夕食が目当てだったので、もうさしたる山めし食材もない。
そうすると、あとは荒川小屋の荒川カレーしかないな。
聖平小屋からここまで、コースタイムで7時間ほど。
そして、ここから荒川小屋へは、あの巨大な赤石岳への登りが3時間、そしてさらに小赤石岳へと縦走し、コースタイムで5時間あまり。
テン泊装備の重さと、疲労した足。
荒川小屋の夕食受付16時までに着けるのだろうか・・・
本来であれば、今日はゆっくりと百閒洞でビールととんかつを堪能し、明日、赤石岳を越えて椹島へ下山するというコースだったのだが、もうこうなったら行くしかないっ!
反射的にザックを背負い、小屋番さんに予定変更を告げて、ダッシュで百閒洞山の家を後にする。
気持ちのよさそうな、ガラガラのテント場を横目に稜線へと向かう。
ガスってなにも見えない中、しゃにむに登り、百閒平 12:25。
そのまま、赤石岳の大斜面下のコルまで飛ばし、
ここから岩礫のトラバース道を上がっていく。
赤石岳への登りの中腹くらいに標柱があり、そこで先の男性が座り込んで補給中。
お互いに目で全ての想いを交わしつつ、私はそのまま何も見えないガスった斜面を登り続ける。
もうあと少しで頂上というところで、ポツポツと雨粒がきたかと思うと、だしぬけにバケツをひっくり返したような土砂降り。
慌ててザックから雨具を出しつつ、カメラを避難させ、ザックカバーを。
急斜面だったこともあり、雨具を着ようとモタモタしているうちに、ずぶ濡れになってしまった。。。
時間を10分ほどロスってしまった上に、ズボンもぐっしょりで、重たいことこの上ない。
雨に打たれながら、トボトボと赤石岳の稜線へ。
前方に雨に煙る赤石岳避難小屋が見え、よほどこのまま避難小屋にはいってしまおうかと思ったのだが、荒川カレーを目指して突き進む。
14:05 赤石岳山頂。
土砂降りの中ゆえ、カメラもだせず、写真もなし。
二十年来夢見ていた山頂も、ただ通過するだけ。
もう、後は時間のことだけしか頭になく、遮二無二稜線を歩き、小赤石岳(3081m)へ登り返し、14:30 山頂。
急げ。
あと1時間半しかない。
小赤石岳を過ぎると、大聖平の分岐まで、これでもかというほど砂礫の道を下っていく。
目印がほとんどなく、視界も効かないので、道があっているのかも不安になってくる。
ガスの中に、大聖平の標識が見えたときには正直ホッとした。
15:05 大聖平。
言うことをきかなくなってきた足に喝を入れつつ、レインウェアの中で滴る汗の分、水を飲み、ラストスパートに備える。
雷のゴロゴロ鳴っている方向へとダッシュしつつ、荒川小屋へのトラバース道を驀進。
15:30 ガスの中に、荒川小屋の赤い屋根が見え、ザックを軒下の雨がかからないところにドサッと置き、倒れ込むように荒川小屋の受付へ。
夕食の受付には何とか間に合い、3回戦 18:10 の回の夕食券を手に入れることができた。
テントの受付も済ませ、テント場の最下段に、小雨の中テントを張り終える。
荷物をザックから出していたら、また雨脚が強まり、バケツをひっくり返したような雨に。
全てを一気にテントに放り込んで、登山靴を収容し、ドボドボの服のままテントの中に倒れ込んだ。
4時過ぎに聖平小屋を出発してから、12時間弱。
コースタイムで13時間ほどの道のりを、後半は何も見えない土砂降りの中、歩いてきた。
荒川小屋(のカレー)というゴールを目指すあまり、プロセスである山歩きを楽しめたのだろうか?
歩ききる、やりきる、目的地へたどり着くという目標は達成したけれど、それが本当に楽しいことだったろうか?
疲労と寒さで、思考も途絶えがちだったが、今日の山歩きでは、すごく大事な教訓を、身をもって得たような気がする。
今まで、体力にまかせ、気力を振り絞って、いろんなムリなことも達成したこともあったけど、
山そのものを楽しむ。山そのものを味わうことを
これからの自分の山歩きにしよう。
仕事も、人生も。
夕食にいただいた、荒川小屋のカレーは、とても美味しかったけれど、
今日の私には、ほんの少し、ほろ苦かった。
(つづく)