4時半に起床。
サクッと赤岳鉱泉小屋の自炊室で朝食をすませ、パッキングをして外へ。

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やっと小屋の明かりが灯り始めた5;30に、赤岳鉱泉を出発し、硫黄岳、東天狗岳を越えて
雪の八ヶ岳を唐沢鉱泉までの縦走だ。


昨夕の美しい夕焼けに、晴天を期待していたのだが、空に星はなく、真っ暗な中、
ヘッドライトの明かりをたよりに、雪のトレースを歩き出す。
20分ほどもすると、尾根に取り付き、急な登りが始まった。

と、左手の樹林の向こう、諏訪の上空あたりで雲が切れ、ぼうっと月明かり。

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ほんの一瞬だったが、なんとも幻想的な光景に驚きつつ、雪道の中着実に高度を上げていく。

そろそろ明るくなってきてもいいのだが、なんだか上空は暗く、心なしか風の音がゴウゴウいいはじめた。

6:50 赤岩の頭へ到着。

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あと10分ほどで日の出だというのに、なんなんだ・・・

目指す硫黄岳も真っ白な中。

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ここからは強い西風を受けながら、山頂を目指す。
トレースはほとんど風で消されているが、勝手知ったる雪の硫黄岳なので、躊躇はない。

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今シーズンはまだ雪が少なく、山頂へは夏道のルートを巻いていけた。

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7:20 硫黄岳山頂。

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空は黒く、風はきつく、夜明けを過ぎているが、明るくなる気配はない。

しかたがないので、写真だけ撮って、そのまま夏沢峠方面へと下っていく。

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ますます風は激しくなり、途中は下っているのに押し戻されるほど。
視界も悪く、次のケルンがかろうじて見える程度だ。

やがて樹林帯まで下り、風をよけられてホッと一息。

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7:55 夏沢峠。

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すでに小屋じまいしている建物のかげに隠れ、テルモスの熱いお湯を飲む。

しばし休息し、ふたたび樹林帯を登り、箕冠山へ。
オーレン小屋からの道と合流する地点で、ザックをおろし、パンで補給。

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ここにくるまで、樹林帯の中なので直接強風にはされされなかったが、
木の上はゴウゴウと吹きすさぶ風の音で、前途多難が予想される。

ここからの強風に備え、冬用ジャケットのポケットやベンチレーションを全て固く締め、真正面からの風と雪に備え、ゴーグルを装備。

アイゼンの紐を締めなおし、ピッケルを握り締めて、箕冠山から、根石岳への鞍部へ歩を進める。
樹林帯が途切れる寸前に撮ったのがこの一枚。

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西からゴーっという音とともに烈風が吹きすさび、目指す根石岳も、根石山荘もまったく見えない。

以前、同じ冬山、ここで撤退を余儀なくされ、夏沢峠まで引き返し、本沢温泉へエスケープをした悪夢が頭をよぎる。

覚悟を決めて、風の塊の中に飛び込むが、台風並みかと思われるような風圧に、思わずよろけ、
すぐに耐風姿勢。

 つ、強えぇ~(涙)

ものすごい風にしばし身動きがとれず、じっと我慢。
しかし、今回はこの年末に心とカラダを鍛えなおす雪山でもあるのだ。
行くのだ。

 オ、オレだって、オレだって!!

アイゼンを確実にクラストした雪面に穿ち、ピッケルを刺して、一歩一歩、じりじりと根石岳へ取り付く。
雪の深さはたいしたことはないが、横殴りの烈風に顔もまともに上げられない。

と、そのとき、勢いを増した風の塊がどっと左から襲い掛かり、見事に横殴りに倒される。
とっさにピックを打ち込んで、飛ばされずにすんだ。

 ふっー。

まだまだ、勝負はこれから。
一度目のダウンだ。

気を取り直してピッケルを突きながら立ち上がり、姿勢を低くして急斜面を登りきる。
根石岳の山頂だ。

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ここで一息ついたが、根石岳から東天狗へのルートもまったく視界がなく、風が唸っている。

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漸次、引き返すかどうか考えたが、いや、まだいける。

今度は後からの強風を背負い、根石岳から天狗岳の鞍部へ慎重に下る。

下りきったあたりで、また異常な風圧が襲い掛かり、あっという間に二度目のダウン。
今日はテント泊装備でないので、荷が軽すぎるんだよなぁ。

二度目のダウンに心が折れそうになったが、もうココまできたら引き返すほうが危ない。

再び意を決して、じりじりと天狗岳へと登り始める。
一歩一歩、アイゼンをきかせ、ピッケルを雪面に深く打ち込んで確保。
もう写真を撮っている余裕はない。

猛烈な風に耐えつつ、とまってはいけない、ゆっくりでも登り続けなければ。
とまったら体温を奪われる。

肩で息をしながら、カメのように歩む。
ふつうなら20分もあればスイと登れる尾根が、1時間にも2時間にも感じられ、風と雪の斜面の格闘を続けていたら、ついに吹雪の向こうに見えた。

左側から間断なく襲いかかる風に抗い、なんとか雪面に打ち込んだピッケルにすがりながら写真を撮る。山頂直下の桟道とクサリ場だ。

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右に飛ばされたら命はない。数百メートルの絶壁。
山頂直下のクサリを手掛かりに掴み、三点支持でしっかりと確保しつつ山頂へ躍り出た。

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9:53 東天狗岳山頂。
思わず目頭が熱くなるくらい、いや、頑張った。

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初めての雪の天狗岳に登ったときよりも、やり抜いた感はハンパなく、思わず涙が出そうなくらい、こみあげてくるものがあった。

山頂の標識の文字を覆った氷を削って写真に収め、

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早々に、下山開始。

山の事故はほとんど下りで起きる。
いまのこのホッとした心が一番危ない。
気をしき締めて下山にかかる。

西天狗方面はモロに風と闘うことになるので、尾根を中山峠へ。

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そこからは5分も歩けば、黒百合ヒュッテだ。

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時間がかなり余裕だったので、黒百合ヒュッテの小屋の中で、カレーとこけももティーをご馳走になり、ようやく落ち着いて、ゆるゆると下っていく。

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14:00 唐沢鉱泉へ到着。

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久々に緊張した雪山山行。
心が折れそうになりながらも、がんばりぬけた自分へのご褒美だ。
今日の烈風との闘いと、今年一年の頑張り。
あとは唐沢鉱泉の湯船でゆっくりカラダとココロを癒そう。

(完)